和やかなムードの中、突然、大きな風の唸り声が。

「何事だ!?」
「虎落笛(もがりぶえ)ですわ」
「【薫風】の唸り声だ!【薫風】に何かあったんだ!」

そこへ【ユーコ】の声。
「やったわ!やっと捕まえた!!」

飛び出してきたのは、ロープと白布で縛られた【薫風】と、
ロープの先を持つ【ユーコ】

その所業を責める皆に、【ユーコ】が呆れ顔で説明する。

「竜王に願い事を叶えてもらうために、紙飛行機に書いて、
 風に乗せて飛ばすって言ってたじゃない!
 私は一番に叶えてもらうために、【薫風】を捕まえてきたのよ!」
「願い事が叶うなんて、勝手な憶測にすぎない」

『願い事』で再び湧き上がる全員に、【薫風】の声が冷や水を浴びせる。

「竜王に思いを伝えてどうなるかなんて、判らない。
 もしかしたら、逆に呪いをかけられるかもしれない。
 もしかしたら、3つ願いを叶えてくれるかもしれない。
 もしかしたら、竜王から何かを要求されるかもしれない。」

その言葉に、悩む住人たち。

「先駆者は危険よ。それでも、あなたはするの?」

【薫風】の厳しい問いに応えたのは、【ユーコ】ではなく
【スカイ】だった。

「僕がするよ!」
「僕の伝えたい思いを書いて、『竜王遊び』まで飛ばせば、竜王がその思いを伝えてくれるって言うのは、
 僕がそう感じて、口にしたことだから」

照れたように言う【スカイ】。

【女】が【男】に問いかける。
「・・・伝えたい、思いって?」

【ドクターコリトール】が【スカイ】に問いかける。
「伝えたい思いって?」

現実と空想世界の二人が、ゆっくりと唇を動かす。
あ・り・が・と・う

【ユーコ】
「ちょっと【スカイ】!私の邪魔しないで!!
 願い事を書くものも無ければ、字も書けないくせに!!」
その言葉に、思わず俯く【スカイ】。

「これを・・・使って」
【女】が【男】の手に、ゆっくりと、天然木の鉛筆を握らせた。

【スカイ】の頭上から、一本の鉛筆が落ちてくる。
大きな鉛筆の到来に、驚く住人たち。受け止める【スカイ】。



【女】「いいから、机に直接書いて・・・!」

鉛筆を握る【男】



「ドクターコリトール!字を教えて!!」

鉛筆を握り締め、【スカイ】が叫ぶ。
【コンピューターマン】も近付いて、【スカイ】に字を教える。

「君の書きたい字は、こんなのだ」
「・・・画面ちっちゃい(笑)」
【ドクターコリトール】に支えられ、【スカイ】は地面に大きく
その「言葉」を書く。

いびつで、拙い、けれど大きな大きな「思い」。

「 あ り が と う 」
『言葉が・・・溢れ出る・・・』

【男】と【スカイ】の声が重なる。
空想世界と現実が、重なってゆく。

「いいわ・・・書いて・・・
 この机の上が、いっぱいになっても構わないから・・・
 あなたの中からあふれ出す言葉を、いっぱい書いて・・・!」

溢れる涙もそのままに、【女】が言う。
【男】は鉛筆を握り締め、机いっぱいに「思い」を綴る。
いつのまにか、空想世界の住人全てが「鉛筆」を持ち、
言葉を書き始めていた。

「おはよう 怒る ずっと」
「こんにちわ えんぴつ 幸せ」
「こんばんわ 恋 そのまま」
「好きだ 心 上を向いて」
「待って エアメール うれしい」
「空 ただいま さみしい」
「笑う君 いってきます 今」
「泣かないで ひこうき 風」

「ごめんなさい」


降りてくる【男】。

住人たちが見守る中、【スカイ】と共に、最後の言葉を綴る。

「愛している」
【女】をまっすぐに見つめる【男】。
意思の力の戻った眼で。

「ただいま」
『ただいま』

全員の声が重なる。

【女】は優しく微笑えんで、その声に応えた。

「おかえりなさい」
「・・・何から、話せば良いのか・・・・・・」

ゆっくりと、噛み締めるように言葉を紡ぐ【男】。

「『ありがとう』。・・・・・・ありがとう」

【女】は泣き笑いの顔で、頷く。

「長い間、あなたの心は閉ざされていた。
 焦らないで、ゆっくり整理して・・・また、聞かせて」

「ありがとう」

一度家へ帰る、と言う【男】。
【女】は微笑んで、「そうね、良いと思うわ」と頷いた。

言葉少なに、二人は心を通わせる。
ゆっくりと、ログハウスを後にする【男】。

『空想世界』は終わりを告げ、住人たちも歩き出す。
扉の前で、ふと【男】が足を止める。

「・・・・・・水曜日じゃなくても、ここを、訪ねていいかい?」

「・・・ええ、どうぞ」

「ありがとう」

何度目かの「ありがとう」を残して、【男】が扉を潜る。
静かになったログハウス。
【女】は机に綴られた文字を愛おしげに撫でる。

そして、一人呟いた。

「今度は、必ず伝えよう。 『愛している』と」







FIN