「こんにちわ」 「・・・こんにちわ」 訪れたのは、【悠子】。 【女】と【男】と同じ大学に通っていた女性。 そして、【男】の妻。 【悠子】は淡々と語り始める。 昨日、【男】の手を取って、離婚届にサインをさせた。 愛した【男】は、【女】の影を追い続け、変わり、壊れていった。 お互い、好意を持って結婚した筈だった。 けれど、本当に愛し合っては居なかった。 【悠子】 「あなたたちに足りなかったのは、お互いの思いを伝える作業よ。 あなたたち、どっちも不器用だから。 ・・・不器用なら不器用なりに、思い切りぶつかりなさいよ!! 私、自分の思いを引っ込める人、嫌いなの! あなたも、あの人も、そういうところ大っ嫌い!!」 言い切り、部屋を去る【悠子】。 【女】の眼に、やりきれない涙が浮かぶ。 | |
−−−そして、また水曜日。 【男】からのエアメールを紐解いて懐かしむ【女】の元へ、 チャイムの音。 【男】が、そこに立っていた。 「・・・おはよう。・・・良かった。来なかったらどうしようって、考えてた」 笑顔で迎える【女】。 「あなたが来る水曜日は、本当にお天気のいい日が多いわね。 もしかしたら、究極の晴れ男かもしれないわ!」 | |
無言の【男】を座らせ、席を立った【女】が、医者に扮して帰ってくる。 【男】が、卓上の「天然木の鉛筆」に手を伸ばしていた。 「・・・その鉛筆に、ちゃんと、覚えがあるのかい・・・?」 驚く【女】は、鉛筆を持ち上げて【男】に見せる。 「持って・・・みるかい・・・?」 しかし【男】は、小さく首を振って手を下ろしてしまう。 落胆する【女】。 しかし気を取り直し、いつもの「紐付き五円玉」を取り出す。 「じゃあ、今日も、君の空想世界を聞かせ・・・ッ・・・」 笑顔で言った瞬間、【女】の頬を涙が伝う。 取り落とした「五円玉」が、音を立てて机に転がった。 | |
「ごめんなさい・・・っ・・・ちょっと、待って・・・」 堪えきれず、【女】は机に伏して泣く。 「あなたに、早く、元に戻って欲しいと思っているけど・・・ 元に戻ったら・・・私は、どうしたいのか・・・ 判らない・・・・・・・・・急に、怖くなって・・・ッ・・・」 必死で声を絞る【女】。 その時、【男】の手がゆっくりと上がり、そっと【女】の頭を撫でた。 するりとカツラがずれ、落ちる。 「もう・・・変装、しなくて、いいよ・・・」 それは微かに、しかしはっきりと【女】に向けられた、 【男】の声だった。 | |
驚愕する【女】。 「・・・・・・わかってた、の?」 「・・・・・・」 「・・・もう、判ってたなら、早く言ってよ・・・」 泣き笑いのように苦笑する【女】に、【男】がまた口を開く。 「・・・ご、めん・・・」 【男】は落ちた五円玉を拾い上げ、ゆっくりと【女】に差し出す。 【女】はその姿を黙って見つめ、やがて決心したように口を開く。 「あなたが戻っても、私がどうするか、なんて判らない。 ・・・でも、気持ちは変わらないわ・・・」 そして、五円玉を受け取る。 「あなたも、戦っているのね・・・。 戻りましょう、あなたらしい、あなた自身へ。」 揺れ始める五円玉。 舞台は再び空想世界へ。 |