紙飛行機を持たせてから、彼の「空想世界」は変化し始めた。
「竜王」・・・新しい言葉が出てきた。
模型飛行機が趣味の彼。紙飛行機を通じて、彼の得意とするお天気の話がメインとなってきた。

【女】は記憶を辿る。

「見て、飛行機雲!」
「ほんとだ、鳥人間コンテスト、今日で良かった」

どちらからも大々的な告白というのは無かった。
でも、お互いに、お互いの事が好きだということは感じていた。
周りも認める、恋人関係。

・・・けれど今の私は、彼の病気を治す手助けをする、
世話焼きの古き良き友人・・・。
今日も、「空想世界」が始まる。

【報道局 男女】が本日のニュースを報せる。
「今日のォ、今日のォ!」
「ニューーーーーーーーース、フラッァアーーーーーシュ!!」
「「ワアオゥ!!」」

そこへ【警備隊 男女】登場。

「何事だ!」
「3歩後ろから、
 少年から、おかしな奇声がすると通報がありました」

報道局「「どういうイミィーー!?」」

またも大喧嘩の4人。
そこへ【ユーコ】と【スカイ】がやってくる。

ユーコ「聞いて聞いて聞いて聞いて聞いてみんなーーー!!」
スカイ「止めてよユーコ、黙っててよぉ〜」

しかし大喧嘩は止まらない。

ユーコ
「もう〜こうなったら、社交的で明るくて超プリティーで
 超ビューティホーなユーコちゃんのパワーを見せてあげるわ!
 ぬおおおおおおぉ〜!みんな、ユーコの話を聞きたくなる、
 マジカル〜〜〜〜〜〜スペシャル〜〜〜〜〜〜ッッ!

全員「うわあああああ〜〜・・・」
吸い寄せられる住人たち。

全員「とっても社交的で明るいユーコちゃんの話を聞きたいです」
ユーコ「はい、どーもです♪」
「さっき【スカイ】から聞いたの!
”竜王遊び”の見える日に、髪飛行機に願いを込めて”竜王遊び”まで風に乗せて飛ばすの! そしたら、どんな願いでも叶えてくれるって!」

ユーコの言葉に色めき立つ住人たち。
【スカイ】と【ドクターコリトール】だけが困惑の表情。

「おいスカイ、少し話が変わってないか?」
「おしゃべりユーコの噂話にかかれば、尾びれも背びれも付いちゃうんだよ!」

【報道局】の予報が始まる。
「最新の竜王予報、イェイ!」
「薫風がここを通過する最速は、16:20、あと1分!」
【薫風】を捕えようとする住人たちに、【ドクターコリトール】が
提案する。
「ここは俺とスカイにまかせてくれないか?」

以前から【薫風】ともっと話す為に、方法を探していた【スカイ】。
【ドクターコリトール】はその方法を考えていた。
それは、大きな布を【薫風】の通り道に広げて風を”溜める”ことだった。

二人に任せて、【コンピューターマン】を覗く他の住人は隠れて待つことに。
踊るように流れてくる【薫風】。
そこへ大きな布を広げた二人が立ちはだかる。
【ドクターコリトール】の作戦は成功し、【薫風】は捕えられてしまう。

「ごめんね、薫風・・・大丈夫?
 少し話がしたかっただけなんだ」

しかし【薫風】は冷たく答える。

「あなたが話したいから、私の自由を奪うの?
 人間は傲慢ね」
反省し落ち込む【スカイ】に、【薫風】はすぐに優しく問いかける。
「話ってなぁに?」

【スカイ】は尋ねる。
「竜王に紙飛行機を届ければ、僕の気持ちを伝えたい人に伝えてくれるっていうのは、本当、なんだよね?」

「ええ、そうよ。
 でも紙飛行機を飛ばすだけでは駄目よ。
 紙飛行機に思いを書いて飛ばさなければ意味が無い。
 空を見上げて気流を掴んで、飛ばすの」

そう言って、【薫風】は遠い空を見上げる。
エアメールは空を飛ぶ。飛行機に乗って。風に乗って。
気流と共に。思いを乗せて。青い空を飛んで行く。

【男】と【女】が出会って2年。
卒業した【男】は大手会社へ就職。
【女】は絵本を描く勉強のため、海外に留学。
週に2度届くエアメールを読む時と、週に1度の国際電話は、【女】にとって至福の時間。
けれど1年半後、電話と手紙はぱったりと途絶えてしまう。

そして2年後、帰国した【女】は知る。
【男】は結婚していた。
二人と同じ大学の同級生の・・・「あの子」と。
「あの子」は、おなかを大きくしていた。

−そして、空想世界−
【スカイ】は困惑する。
「僕は字が書けないし、肩こりで空を見上げる事もできないよ!」
【薫風】は笑顔を消さない。
「大切な事は、夢を持つ事。
 でも、もっと大切な事は、その夢を諦めない事。
 一歩一歩積み重ねていけば、必ず頂上へたどり着く」

「薫風・・・」
呟いた隙を突いて、【薫風】は中空に飛び去った。
「ありがとう、薫風!」
【スカイ】は大きく手を振る。