「俺はさぁ・・・こんな風になってる筈じゃ、なかったんだよ・・・」 とある風俗店の一室で、したたかに酔っ払い、身の不幸を愚痴る無職男。 「何はともあれ、今日は私に夢中になって、忘れちゃえば良いじゃない」 優しく誘う、少女のような風俗嬢。 だが男の眠気は限界だった。 ゆり起こそうとする女の手を振り払い、寝言のように呟く。 「大体、君・・・。こんなトコ、いてちゃだめだ・・・。・・・眼」 「め?」 「・・・スレて、ないし・・・・・・」 そのまま子供のように眠る男を見つめ、女は小さく笑う。 「なんか、あなたのこと、気に入っちゃった・・・」 | |
「俺は夕べ、あの子に『仕事を紹介してやる』と約束をしたらしい・・・」 どこかのお嬢様だったらしい風俗嬢を迎えに来た、ボディガード達に連行される男。 行き着いた先には、風俗嬢の母親と、大男、そしてチャイナドレスの女。 会うなり喧嘩を始める母子を、大男がやんわりと宥めている。 「さくらさん、そんなに怒ってばかりいると、お美しいお顔が台無しですよ!」 「まぁ!・・・そうね!」 | |
「あなた、名前は?」 「蒼乃武司(あおの・たけし)。・・・あんたは?」 チャイナドレスの女の名は、龍美紀(ロン・ミキ)。チャイニーズ系マフィア『シェンロン』の令嬢だった。 大男=美紀の用心棒、星輝希(ほし・てるき)は武司に、約束の『仕事』について説明を始める。 「ボスのご命令で、最近流行りのホストクラブの経営をすることになった。 店長には名目上、私がなるが、実際の経営は『ホスト兼主任』として誰かに任せたい」 「挫折中の人間を探してたってわけか・・・」 呟く武司に、美紀は笑顔を向ける。 「挫折じゃないわ。・・・可能性のある人間よ」 ここから、クラブ『TOP』の物語が始まる。 | |
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主任ホストとしてのノウハウを学ぶため、 昼間は大量のセミナーや講習会に参加し、 夜は界隈の店へ足を運び、朝まで夜の街を練り歩く。 「もしかしたら、面白い店ができるかもしれない!」 武司の熱意に応えるように、 続々と集まる、個性的なホスト志望たち。 (上段・左、右) 「今宵は、愛の城へようこそ」 ホストクラブ・ミッドナイトの元No3ホスト/雲井夜月(くもい・やづき) 「貯めたいんス。おもっっっくそ、貯めたいんス!!」 夢のために稼ぎたい、卸問屋のセールスマン/天紫暮(てん・しぐれ) (下段・左、右) 「君は、私の、命!命!イノーーチ!HAHAHAHAHA!!」 学費のために夜のバイト、ハイテンション英国人留学生/マイク・デービス 「俺、大人の男になりたいんです」 惚れた年上女性の為、大人の男を目指す童顔大学生 /明星嵐(みょうじょう・あらし) |
「かっこつけるだけがホストじゃない。 恋愛擬似空間としてだけが、ホストクラブじゃない。 そこに、入りやすい笑いが必要だ。」 店の経営理念を、熱く語る武司。 カッコよさと、親近感のもてる「くすり」笑いを追及するため、 ホストたちの特訓が始まる。 | |
「サービス業の基本は挨拶だ!」 「女の年齢は、首のたるみで判断しろ!」 「触っただけで、指輪のサイズが分かるように訓練だ!」 「ホストに必要なのは、女の子をすぐに褒めることのできる、観察眼だ!」 郷ひろみに負けない可憐なターン、汗臭くないサワヤカさ、 そしてなにより、全世界人類の女性を愛すること! かつてはNo1ホストとして君臨した経歴の在る、輝希の指導で、 新人ホスト教育は着々と進んだ。 | |
そしてついに、クラブ「TOP」オープンの日がやって来た。 オープニングパーティは、仮面舞踏会。 「レディースアンドジェントルメン! ホストクラブ「TOP」本日開店いたします! まずは仮面をつけて、誰に恥じることもなく、日頃のストレスを ダンスでハッスル、お楽しみください!!」 | |
ホストたちのデビュー戦。 少年隊の「仮面舞踏会」にのせて、熱いダンスを披露する。 | |
クラブのお客様もやってきて、みんなでハッスル。 | |
ダンスが終わって、着席。 紫暮の初めてのお客様は、なんと男だった。 「申し訳ございません。 当店では、男性お一人のご利用はご遠慮いただいているのですが・・・」 やんわりと断りを入れる武司に、客は不満げに言い放つ。 「ダメなの?他店では、僕の受け入れをしてくれたけど?」 | |
「大体僕だって、全てのホストに興味がある訳じゃない。 僕は・・・・・・居た!」 男の客が駆け寄ったのは、外人ホスト・マイクの所。 「草一郎!!頼むから黙っててくれ・・・ うちのオーナーに、修行をして来いって命令されたんだ」 二人きりになると、カタコトの日本語を捨てて、男を説得するマイク。 なにやら訳ありげな二人。 | |
一方、女性客にも問題があった。 「愛華(あいか)に気をつけてください・・・。 キャリアのあるホストたちの間では『厄病神』とも言われている」 クラブ『愛の地平線』のNo1ホステス・愛華について、忠告をする夜月。 | |
オープンから一ヵ月後。 事務所を訪れた武司の目に飛び込んだのは、跪き呻く、美紀の姿。 タバコに模した麻薬を絶とうとした美紀が、禁断症状に襲われていたのだった。 「大丈夫。俺のことだけ考えて、美紀さん・・・」 美紀を抱きしめ、落ち着かせる武司。 「もっと、違う形で、武司と出会いたかった・・・」 「俺は十分ですよ。逆に、この形でなければ出会えなかった」 | |
クラブの客、OLの川本かすみ(かわもと・かすみ)は、不倫まみれ。 「とにかく、惚れっぽいのか、傍にいると好きになっちゃうのよ」 大人の男になるため、不倫話に聞き入る嵐。だが、だんだんと熱が入ってくる。 「俺、小さい頃からすっごい不思議に思ってたことがあります。 手が動くこと、指が動くこと。当たり前のことなんだけど、当たり前でいられなくて・・・ 最近分かったんです。大事なものを掴むためにあるんだってことを。」 嵐の言葉に、呆然と聞き入るかすみ。 | |
嵐が12時で退店した後、かすみの親友、山吹みどり(やまぶき・みどり)がやってくる。 みどりは高校教師。 進路指導で、問題のある生徒について、今夜も夜月に相談を持ちかける。 「どうも口を開けば、『大人の男になりたい』って、進路の話にならないんです!」 (回想シーン) 「若さの話が出たら、夜月さんのメモ・・・とっておきの説得・・・ 『若さは、すばらしいものよ。すばらしい、ヤングマン!』!」 「俺は、若さは青さでしかないと思っています」 | |
色々なお客を迎えながら、クラブ「TOP」は繁盛する。 「さぁ、今夜もお客様獲得に向けて、街頭パフォーマンスだ!」 武司「曲は何が良いかな?」 夜月「恋する女は綺麗さ、一人のものにならないで・・・」 武司「お嫁サンバか!!くすりと笑えてカッコ良いターン! よし、それにしよう!」 3人「マジで〜!?」 そんな会話から、始まった、街頭パフォーマンス。 始めは抵抗していた3人も、結局ノリノリ。 だが、すぐに警察がやってきて追われる事に。 「常に場所をローテーションさせ、変則的にやってきたのに、 やたらと警察に足がつくようになった。 どうも先回りされている気がしてならない、今日この頃だった」 | |
「あなたと奏でるものは『愛の旋律』 あなたの声が耳に入ると「ド」の音が鳴る あなたに触れると「レ」の音が鳴る 会話をすれば「ミ」の音が、 あなたが笑えば、僕の胸で「ファ」の音が・・・ そうして、あなたとの関係が進む度、僕の中で奏でられるのは 迷走(瞑想)曲・・・」 マイクの所に通う男性客、大木草一郎(おおき・そういちろう)は有名詩人。 嵐の恋愛話を聞いて、即興の詩を朗じてみせる。 意味深な詩を、真剣な顔で聴く嵐と、複雑そうに見つめるマイク。 | |
詩が終わり、話し始める三人。 先日、かすみに向かって語った台詞で、草一郎は嵐に興味を持ったという。 「人間に言葉と口が与えられているのは、必要だからだよ 嵐のこと気に入ってる、不倫OLとはまんざらでもなさそうに喋ってるじゃないか」 やがて話は、かすみの事へ。 「かすみさん。かすみさんは、なんか、話しててらくだから」 「コイニコイスルトシゴロハ、フクザツダナ!」 | |
隣席では、武司を連れてきた風俗嬢=クラブ「TOP」の出資者・東条さくらの愛娘、 すみれが、紫暮の接客を受けていた。 「すみれちゃん、元気ないね。 俺、いつ渡そうか悩んでたんだけど、すみれちゃんに元気になってほしいから今、渡すよ」 そういって、紫暮が手渡したのは、すみれのサイズにピッタリ合わせたジーパン。 「ホストって、貢がれる方なのに、逆じゃない。(笑)」 「いいんだ、すみれちゃんが、好きだ・・・から・・・」 「夢って、持ってた方がいいと思うけど、無理に持たなくてもいいと思うんだ。 ただ、探そうとする自分がいるかどうかが大事なんだと思う」 懸命に、すみれを励ます紫暮。すみれにも笑顔が戻る。 | |
ただ日々をぼんやりと過ごす、すみれを叱ったさくら。 だが、紫暮の言葉に、すみれは女優になるためのレッスンに通うことを決意する。 さくらの好きなモスコミュールに、小さな手紙を添えて、届けるように頼むすみれ。 「ママ、ごめんね。明日からレッスンに行く。女優になれるようにシバキ倒して」 メモを見て、涙ぐむさくら。 「武司君!ドンペリ一本開けて、今日来てるお客さんにふるまってちょうだい! 門出祝いよ!」 | |
そんな中、珍しく早い時間に、みどりが来店する。 出迎えに立った嵐だったが、みどりと眼が合った瞬間、二人して凍りつく。 「どうしたの?みどり、彼が私のお気に入り、嵐くん♪」 「かすみ・・・彼が、アケホシ君よ。私のクラスの進路相談の・・・」 「え?ええええっ!?」 逃げようとする嵐。追いかけるみどり。 ついに想いを告白する嵐に、みどりは告げる。 「ごめんなさい、私、婚約者がいるの・・・。アケホシくんは、大切な私の生徒よ」 嵐は、静かに歩み寄り、みどりを一瞬抱きしめた。 「先生、ご迷惑をおかけして、すみませんでした・・・」 | |
年齢をごまかしていた嵐は、店をクビになる。 「俺、来月には18になります!武司さん!」 必死に訴える嵐に、武司は微笑む。 「・・・来月、帰ってこい。お前の籍はあけといてやるから」 驚きと安堵にざわめく店内。そこへ、悲鳴と共に愛華が現れる。 「ちょっと、痛い!離してよ!」 嵐のことを、警察へ通報しようとした愛華を、輝希が捕らえていた。 | |
「今日は、当店のビールサーバの中に、多量の下剤が投入されていた。 これはその犯行命令をあなたが、マイク・デービスと話しているところだ」 輝希が小さなテープレコーダーを再生すると、愛華とマイクの声が聞こえる。 衝撃の走る店内。 ショックを隠しきれない草一郎の前に、愛華の哄笑が響く。 「証拠は出揃ったって訳ね。マイク」 無言で、傍らに歩み寄るマイク。 | |
「茶番はそろそろ終わりにしたらどう?」 そう言って現れたのは、美紀。 「上手に素性を隠していらっしゃったものね。 『愛園組』幹部令嬢、次期幹部候補『愛華』こと愛田華蓮(あいだ・かれん)さん」 お互いの握った情報を捨てることで合意する、美紀と愛華。 去ろうとするマイクに、草一郎が迫る。 「君はそんなデタラメな外人変装のまま、隠れて逃げるのか!?」 追い詰められ、カツラと付けっ鼻を投げ捨てるマイクこと、 ホストクラブ『ラブホライゾン』No1ホスト、荒也(こうや)。 | |
「美紀さん、俺、ちょっと行ってきます」 二人が出て行った後を追おうとする武司。 「マイクと、いや、荒也と話がしたい。あいつは・・・悪い奴じゃない。 どうしても、少し話がしたいんです。 お前とこの店をオープンできて、俺は後悔してないって」 「・・・優しいのね、・・・まったく」 苦笑しながら、見送る美紀。 その後姿が、最期になるとは、思ってもいなかった・・・。 | |
店を出て、荒也を追った武司は、赤信号の交差点に進入してきた、 居眠り運転の車に撥ねられた。 即死だった。 死神が、武司の影を追おうとする美紀にまとわりつく。 武司は連れ去られ、美紀には、かつて止めた筈の「タバコ」が残される。 | |
三ヵ月後。 タバコを燻らせる美紀のもとへ、夜月がやってくる。 「店、開けませんか?・・・俺が武司さんの代わりを務めます。 武司さんの変わりに、あなたを守ります。 ・・・あなたのことが好きなんです」 自失の美紀に、夜月は必死に語りかける。 「あの頃、武司さんは、一番幸せだったはずです。 だから、次は美紀さんが幸せになってください。その努力をしてください。 でなければ、天国の武司さんが、悲しんでしまいます・・・」 退室した夜月を見送る美紀の眼に、涙が溢れる。 「・・・夜月・・・。 ---------・・・武司・・・っ・・・・・・」 | |
一人店内を掃除する夜月のもとへ、以前の仲間達が続々と集まる。 良い男を目指して、入店を希望する草一郎と、彼を誘った紫暮。 結局、かすみと付き合い始めた、大学生・嵐。 旧交を温める中、輝希が荒也をつれてやってくる。 「お願いします!俺をここで働かせてください! 武司さんも、みんなのことも好きだった・・・今は、言い訳も何も無い・・・ただ、それだけだ・・・」 店を辞め、愛華とも手を切った荒也。イチからやり直したいと土下座する彼に、美紀は告げる。 「裏切り者には制裁を・・・というのが私たちの常識だけど、 『あなたとこの店をオープンできて、後悔はしていない』と言った 武司の言葉に免じてあげるわ」 | |
「武司の作った『TOP』の名は、武司に捧げたいと思うの。 みんなには、『TOP』を越える、トップスターになってもらいたいから、 名前をホストクラブ『TOP☆STAR』にしたいの」 美紀の言葉に、全員が頷いた。 「いいですね、武司さんに恥じない店にしたい。 みんなで作ろう、武司さんに恥じない店を!」 『はい!!』 | |
全員が大きく応えた時、高らかなクラッカーの音と共に、武司が現れる。 光の中、ゆっくりと夜月に近付く武司。 二人は見つめあい、しっかりと握手を交わした。 − End − | |
『ご来店、まことにありがとうございました!!』 上段左から 輝希・草一郎、紫暮、愛華、荒也(マイク)、嵐、さくら 下段左から みどり、かすみ、武司、美紀、夜月、すみれ |